2021/6/6

日報 / 時系列順・つらつら・断片的

 

折り畳み自転車を担いで玄関の扉を開けたら雨が降っていた。まじか、と呟いてそのまま部屋に戻り自転車を置いて、代わりに傘をさして外に出た。外出しようがしまいが、洗濯しようがしまいが、天気予報を見る習慣が私にはない。

外出の目的は「図書館に行って予約していた本を借りること」だ。それさえできればよいので、途中でどんな寄り道をしてもよい。後の行動は全て私の気分次第だ。まあ「図書館に行って予約していた本を借りること」を目的と設定したのも私だから、その目的を撤回して、何もせずに帰ってきてもよい。どうしたってよいのだ。全ての判断が私に委ねられている。こういう状況が一番好ましい。

 

図書館までの道には公園がある。公園の前を通りかかったら中にこれがあったのでとりあえず通り抜けてみた。

f:id:gosui_zutto:20210606162940j:image

傘を開いたまま通ったら途中で傘の先が網目に引っかかった。そりゃそうだ。先を網目から外して通り抜けた。トンネルを抜けると少し先、公園の隅の隅にあるコンクリート製の小屋の屋根の下で、中年男性と思しき人がビニールシートを敷いてひとりぽつんと座っているのが見えた。私もこの公園に長時間滞在するならそこを選ぶだろうなあ…と思った。

 

何だか今日はいろんな人とか物が、意味のあるように目に映る日で、公園ですれ違った人たちの顔とか、紫陽花の色とか、小さな噴水の水の流れとかその音とか、子どもを遊ばせていた男性が履いていたジーンズのくたくたの、やわらかな曲線とか、そういう物がいちいち目に入った。鮮明に全て思い出されるわけじゃないけれど、それらの印象が頭の中にまだ残っている。経験上、それらがすぐに消えるのは分かっている。脳の川にイメージがたゆたう時間が少し長いだけで、そのうち流れ去ってしまう。別に惜しくはない。私はいろんなことをすぐ忘れる。

 

公園には使われなくなった機関車とか電車が遊具として置いてあることがまあまああると思うが、この公園もそうで、もう乗り物としては使われない、いろんな乗り物が遊具として置いてある。私はこういうのが大好きなので、ひとりだったけれど滑ったり、中を見て遊んだ。こういう時、私は私の無害そうな外見を便利だと思う。周囲から危険だと思われなければ、何をしても咎められることはそうない。

 

なおもふらふらしていると、遊具に描かれたプリンの絵を見つけた。(このプリン…塗り直されている…!?!?)私は少しショックを受けた。塗り直される前のプリンの方が好きだったからだ。少し前、恋人と夜にこの公園に来たことがあった。その時に(いいプリンだな〜)と思って写真を撮ったそのプリンが、鮮やかな色のペンキで塗り直されている。前のプリンの方がよかった…あのプリンはもう二度と戻ってこない。


f:id:gosui_zutto:20210606163050j:image

f:id:gosui_zutto:20210606163046j:image

 

まだまだふらふらしていると公園の休憩所なるものを見つけた。出入り口の引き戸のガラス部分にはワクチン接種を呼びかけるビラが貼ってあった。プレハブ製の小屋だけど、それなりにスペースがあって、中には、テーブルやベンチが数セット、掲示板、自動販売機、作りは粗いが授乳室さえあった。誰もいなかったし、遊具のある場所から少し離れているので、少し座ってじっとしようかと思ったけれど、戸の外に人影が見えたのですぐに離れた。「この休憩所にある自販機のドリンクを補充しに来る人」のことを脳みそが勝手に考えた。その人が訪れる時、この場所はいつもどんな風だろうか。常に人がいないわけじゃないんだろうけど、羨ましいな。

 

その後、公園の芝生部分をずんずん進んでいると、足元で何かが飛び跳ねた。バッタだった。1-2センチくらいの大きさで、それくらいの大きさなら虫が苦手な私でもしゃがんでじっくり見るのに問題はなかった。小さなバッタを見るのは久し振りなので写真に収めようとしたが、芝生の上のバッタは芝生と見分けがつかない。小さいからなおさらだ。擬態という生き物の仕組みに感心して公園を後にした。一応ここに写っていると思うんだけど、見つけられますか?

f:id:gosui_zutto:20210606163113j:image

道道で紫陽花を見かけたときもつい立ち止まってしまったけれど、この野花を見つけた時も立ち止まってしまった。この赤さすごくない?自然の色ってすげ〜と思う。一番きれい。

f:id:gosui_zutto:20210606163126j:image

歩道の脇に立ち止まってその花を見ていたら、右手からカツカツカツと音が聞こえた。顔をあげると、ツヤのある素材でできたペールカラーの膝丈ワンピースに、透け感のあるボレロを羽織った女性が、同じく淡い色のヒールを履いて駅の方へ走っていった。(結婚式に遅れそうになっている人だ!)と咄嗟に思った。結婚式に向かっている時って、完全に「結婚式に向かっている人」以外の何者でもなくなってしまう。結婚式という非日常の場に着いてしまえば馴染めるけど、ザ・非日常の格好で、人々の日常の中を通り抜けていくのってなんかちょっと恥ずかしいし、自分の外出の目的が周囲にもろばれなのもなんだか居心地が悪い。全くもって仕方のないことだし、タクシーに乗るほどその状況を忌避しているわけでもないけれど。

 

ある寂れた工場の横っちょについてた茶色の軽そうなドアに「SEGA」っていう表札が貼ってあって、(ぜってえうそだろ)と思ってたら図書館に着いたので、本を4冊借りた。